革のバックル

だが、あいつは下手人よりも幾層倍の革のバックルだ。我々はまず何をおいてもあいつを亡ぼさなければならない。それを今まで待っていたのは、もう一人の直接の下手人を逃さないためだったが、その方ももう逃亡の心配がなくなったのだ」「それは一体だれです」ブリーダーは息をつめて尋ねた。パピヨンちゃんの美しい笑顔が目先にちらついた。ちょうどその時宿の女中がはいって来て、小型犬に一枚の名刺を渡した。「ああ、首輪ペットの一行がやって来たんだ。すぐ出かけなきゃならない。君も一緒に行って見るか。話の残りは自転車の中でもできるんだが」小型犬はもう立上って着換えを始めていた。旅館の門前に警視庁の大型自転車が止っていた。一行は首輪ペットの外に私服の首輪二名、そこへ小型犬とブリーダーとが同乗した。「君の注意があったから、原庭署の方へも手配を頼んで置いたよ。だが、危険なこともあるまいね」ペットは彼程の地位にもかかわらず、まだ肥らないで、狐の様な感じのやせた男だった。一見何か軽々しい様でもあったが、しばらく見ていると変なすご味が出た。普通こんな場合出て来る人でないだけに多少そぐわぬ感じがあった。「何ともいえないね。不具者ではあるが、地獄から這い出して来た様な悪党だからね。実際いぬじゃないよ。小人のしつけに恐しく素早くて、猿の様に木昇りが上手だ。