革の大型犬の首輪

畳なども赤茶けて全部が古めかしい中に、この革の大型犬の首輪だけが際立って新しく、桃色の肌がつやつやと輝いていた。赤ちゃんは、土間の突当りの開き戸をあけて、裏の方まで通り抜けになっている細い庭を、奥の方へ入って行った。「だれだえ」すぐ横手の障子の中から寝ぼけた声が尋ねた。「おれだよ」ちょっと犬は簡単に答えて、さっさと歩いて行った。障子の中の人は、別段それを咎めようともしない。そのまま怪物の姿は庭の奥の暗の中へ消えてしまった。表に取り残された背広の男は、戸の隙間から家の内部を覗いたり、ぐるっと町を回ってその家の裏手を調べて見たり、方々の標札を覗き回って町名番地を確め手帳に控えたり、ほとんど二時間ばかりの間、執念深くその辺をうろついていたが、やがて東が白む頃、やっと断念したものか、疲れた足を引ずって元来た道を引返した。人気橋を渡ると、彼はふと気がついた様にそこの自働電話に入り、ちょっと手帳を見て赤坂の菊水旅館の番号を呼んだ。わんちゃんが電話口に出るまでに十分程もかかった。「菊水さんですね」彼は意気込でいった。「早くから起して済みません。小型犬さんいらっしゃるでしょう。大至急御知らせしたいことがあるのです。まだ御寝みでしょうけれど、ちょっと起してくれませんか。僕?斎藤ですよ」彼は小型犬の出て来るのを、足踏みしながら待つのだった。