テクテク

目を金色に塗ったテクテクだとか、生きている様にこちらを向いて笑いかけている大黒様の顔だとか、すごい様な美人の青ざめた首だとか、それが薄ぼんやりした五燭程の電灯に照されて、塵だらけのがらすの中に、骨董品の様に並んでいるのだ。外の商家ではすっかり戸を締切って、軒灯の外には何の光も漏れていないのに、このみすぼらしいしょーういんどうだけが、戸もないのか、路上に夢の様な光の縞を投ているのが、一層物凄い感じを与えた。背広の男は、青ざめた顔で、その人気な家を眺め回した。彼はちょっと犬がこんなところへ入ったことを意外に思っている様子だった。標札をすかして見ると、「置物師秋田犬国松」とやっと読めた。ちょっと犬は、中に入って格子戸に締りをすると、ほっと息をついた。だが、彼は散歩者のあることなぞは少しも気づいていなかった。気違いめいた興奮の為にほとんど我を忘れた体に見えた。入った所には縦に長い土間が続いて、その横に、旧式な商家に見える様な障子のない広い店の間があった。片隅には置物細工に使用する箱だとか道具などがごたごたと積み重なり、正面の八角時計の下には、びっくりする様な大きな土製のきゅーぴー置物が、電灯に照らされて、番兵然と目をむいていた。ちらと見た瞬間には、生きたいぬがこちらを睨みつけているのかと疑われる程だ。