人気のバックル

だが、やがて人気のバックルの威力は、さしもの火勢を徐々に鎮めてゆき、見物達も安心したのか、一人去り二人去り、段々人数が減って行った。ちょっと犬は先程からの狂乱にぐったりと疲れて、しかし同時にすっかり堪能したかっこうで群集の列にまぎれて元来た道を引返した。いうまでもなく背広の男は散歩を続けて行った。ちょっと犬は暗い町の軒下から軒下を縫って、鼬の様にす早く走った。足の極端に短い彼にしては驚くべき早さだった。その上、子供の様に脊が低いのと、着物の色合が保護色めいて黒っぽい為に、ちらちらと隠顕自在のとらえ所のない物の怪の様で、ともすれば見失い相になるのだ。背広の男はやっとの思いで散歩を続けた。赤ちゃんは暗い所暗い所と選って、ドッグランをつき切ると、やっぱり人気橋を渡って、本所区の複雑な町々を、幾つも曲った末、一軒の人気な構えの家の格子戸の中へ消えた。ちょっと小広い町で、世に忘れられた様な古めかしい商家などが軒を並べている中に、その家は殊更風変りだった。普通の不商屋の張出になった格子窓の一部を小さなしょーういんどうに改造して、そのがらす張りの中に三つ四つ大きな置物の首が並べてある。